対面レッスンより独学をオススメする理由
現在のボイトレにおいて主流なのは対面レッスンであり、多くのボイトレ教室ではスタジオを所有した上で生徒が定期的にレッスンに通うモデルになっています。
僕はこの仕組みにより、不幸な生徒が大量に発生してると考えています。
「ボイトレ教室」というビジネスモデルの限界
ボイスト教室を運営していくためには、いくつか必須の準備があります。
- 防音設備が整っており、かつ5~10人程度が余裕を持って入れる防音室
- キーボードやその他楽器、カラオケ設備や音響などの専門機器
- 実際にボイトレを行う講師
教室では、これらのコストを払った上で運営するメリット(利益)が発生するほどの売上を立てなければなりません。
売上を増やすために教室ができることは
- 生徒数を増やす
- 生徒一人当たりの単価を高める
この2点ですが、ボイトレ教室において「②生徒一人当たりの単価を高める」行為に限界があり、必然的に①の「生徒数を増やす」行為で売上を増やすことが必須となります。
「プロになりたい生徒」はお客さんではない
ボイトレ教室を訪れる最も多くのお客さんは「歌ウマになりたい一般人」であり、「プロになりたい」人は少数派に分類されます。
「プロ歌手になりたい人」が最も優先的にやるべきことは「歌が上手くなること」ではないからです。
今の時代、CDや配信に使用する音源は編集により一定以上のクオリティに仕上げることが可能になりました。
一方で、誰でも音楽番組を見て「この人は上手、この人は下手」と批評することができます。
つまり、「この人にしか作れない曲」を作れる人は歌が下手でもプロになれますが、「この人にしか出せない歌い方・歌唱力」でプロになっている人は極々一部であり、テレビで見るのも流行ってるのも、「『この人にしか作れない曲』を作っている人」ということになります。
参考例として、Mrs. GREEN APPLEというバンドをあげさせていただきます。
以下のライブ映像はボーカルが高校3年生の時のものですが、当時から「学生でバンドや音楽活動をしてて、見てない人いないんじゃないか」と思うくらい、あちこちで話題になっていました。
ライブなので普段以上に歌いづらい環境ではありますが、素人目にも歌唱力は万全ではないことはわかります。
それにより曲の良さが強調されており、僕はこのライブ映像を見たことによりこのバンドを好きになりました。
※以下は同じ曲の、綺麗な環境でレコーディングされたMVです。
以上のことからもわかるように、現代において音楽で食べていきたい人が最も優先すべきは「自分にしかできない曲づくり」であり、次にSNSをうまく使って自分をブランディングすることでしょう。
ボイトレが必要になるのは歌唱力が必要になってから、つまり「あなたの歌を聴く人が増えてから」です。
これは「音楽を仕事にしている人」や「音楽を仕事にしたいバンドマン」のほぼ全員が感じていることであり、プロを目指している人のほとんどが夢を叶えることができず普通に就職していくことを、ボイトレ教室は知っています。
結果、ボイトレ教室では「プロになりたい、より高度な技術を求める人」を集めて高い単価でレッスンを行うよりも、「そこそこ上手になりたい」人を集めてグループレッスンを増やす方が儲かるビジネスになってしまいました。
「そこそこ」にレベルの高い講師は必要ない
これにより、講師に求められるのは「高い指導力やトレーナーとしての能力」ではなく「より多くの人数にある程度のトレーニングをする能力」となります。
各講師は一人あたりの生徒数が増えるため、各生徒への個別対応が難しくなりますが、
講師の育成も簡単ですし、そもそも高度な知識を持った生徒が来ないのでボロを出さずにレッスンができます。
もちろんこの仕組みは生徒側にもメリットがあり、最もメリットを受けられるのは「普通〜そこそこ」を求める人です。
ボイトレを検討する人のほとんどは「カラオケでちょっと褒められたい」や「友達と楽しく歌いたい」といった一般の人々ですので、求めるレベルによっては十分満足できるでしょう。
ほとんどの場合、高額なレッスン費用も機材もハードなトレーニングや厳しいレッスンもありません。
ネットで有名な個人トレーナーに習う限界
例外的に、自分のスタジオを持って個人でトレーナー業を営んでいてるボイストレーナーも存在します。
これはあくまで僕個人の見解ですが、僕のようなトレーナーを含め「個人トレーナーに習うのは一般的な教室以上にリスクが高い」と考えています。
ボイストレーナーに資格は存在しない
ボイストレーナーとして活動する上で、資格や免許は必要ありません。
どんなに素人であっても、名乗った瞬間から職業ボイストレーナーです。
僕は独学で学んでから開業したボイストレーナーですが、トレーナーとして最も危険なのが「独学で開業した、僕のようなトレーナー」だと思っています。
「実績があれば安心」ではない
ボイストレーナーの実績をどのように評価するのでしょうか?
「指導した生徒数1万人以上!」と件数を実績にしているトレーナーもいますが、sns上で検索した時に「〇〇先生の指導で成功しました!」と言っている人がいる可能性は限りなく低いため、実績を盛っているだけかもしれません。
※「1万人指導した実績が嘘」という可能性だけでなく、「本当に1万人指導してるが、対象が『そこそこ上手になりたい一般人』だったために表面化しなかった」という可能性もあります。
「1年間ボイトレに通って、コンプレックスだった音痴を治しました」と世間に公表したい人はほとんどないので。
「あの歌手は俺が育てた」と自称していても、それが真実とは限りませんし、もちろん確認はできません。
※多くの場合は事務所と提携したレッスン教室があり、なによりお客さんの個人情報ですので公表できない場合も多くあります。「俺が育てた」と言ってる人が「言ってない人よりマシ」という保証もありません。
もちろんこれらはボイトレという業界に限った話ではありませんが、個人のトレーナーを信頼する際の判断材料として信用するのは非常に危険です。
「トレーナーの歌唱力」はトレーナーとしての能力と一切関係ない
大きく誤解されている点ですが、「トレーナー自身の歌唱力」は「トレーナーとして育てる能力の実績」と一切関係ありません。
トレーナーの仕事は「教えること」であり「自分の歌唱力を磨くこと」ではないからです。
僕はボイストレーナーとして活動している以上、人の歌を聴いた際に「なにが課題でどうするべきか」をかなり具体的に説明することができますが、自分が歌っている際も同様に課題をたくさん感じます。
でも僕の仕事は「歌を上手に歌うこと」ではなく「そのために必要なことを人に説明すること」なので、もちろん普段から歌の練習はしていませんし、そんな時間もありません。
音程を取る練習も高い声を出す練習もしていないのですから、「日々練習している生徒の方の方が上手」ということもあります。
同様の理由から、歌唱力が伴わないボイストレーナーはたくさん存在するはずです。
なにより、
正しい知識や情報を持っていない生徒側が、講師の歌を聞いて歌唱力を判定してしまうのは非常に危険であり、自分の歌唱力に自信がないのなら絶対に避けるべき評価方法です。
もちろん、「全く高い声が出せない」「テクニックがない」というトレーナーは問題だと思いますし、僕自身もサンプルの実演はします。
それでも本格的に練習する上ではプロの音源から条件に合ったものを聞く方が効果的ですし、レッスンを受けている生徒自身が自分で良し悪しを判断できるようになるためにも、YouTubeでプロが歌っている動画からお手本を見つける方が良いと考えています。
「優れた講師」と「独学」はどちらが早いのか
「うまく聞こえる」「素人っぽく聞こえる」の違いについて
プロレベルで戦うのであれば別ですが、日常生活やカラオケレベルで「歌がうまそう」を作り出すのは難しいことではありません。
「歌がうまそう」を構成する要素はいくつかあり、それを優先的に抑えることで手っ取り早くそれっぽさを演出できるようになります。
よく言われるのが「音程一致率が低いと音痴に聞こえる」ですが、音程一致率を100%にしても80%にしても、「うまそう」という感覚はほとんど変わりません。
全く音程が取れないのなら練習するべきですが、すべての作業において100点ではなく80点を目指しましょう。
これは「パレートの法則」と呼ばれるものですが、
・80点を取るために必要な労力は、100点をとる際の20%
・80点を100点にするために必要な労力は、100点をとる際の80%
と言われています。
初期段階で100点を目指すのは非常に効率が悪いので、80点の項目を増やす作業を優先してください。